ロレックスを資産として語る際、多くの場合「どのモデルが上がるのか」「将来いくらになるのか」といった値上がり前提の話に寄りがちです。しかし、鑑定や買取の現場で実際に重要視されているのは、むしろその逆で「どれだけ値崩れしにくいか」「相場が下がった局面でもどこで踏みとどまるか」という耐性の部分です。2022年の急騰とその後の調整を経て、値上がりを狙う難易度は大きく上がりました。一方で、資産価値が落ちにくいモデル、すなわち“保全性の高いロレックス”はより明確に浮き彫りになっています。本章では、価格が跳ねるモデルではなく、相場が揺れても大きく崩れないモデルの共通点を整理し、なぜそれらが安定して評価され続けるのかを鑑定士視点で解説します。

「資産価値が高い」と「値上がりする」は別物

まず前提として整理すべきなのは、資産価値が高い=将来必ず値上がりする、という意味ではない点です。実務で言う資産価値とは、「一定期間保有したあとに、想定外に安くならずに手放せる可能性が高いかどうか」を指します。つまり、買値と売値のブレ幅が小さく、下方向へのリスクが限定的であることが重要です。短期的な高騰は魅力的に見えますが、同時に下落リスクも内包します。反対に、派手な上昇はなくとも、底値が堅いモデルは結果的に“資産として優秀”と評価されます。

条件① 世界共通で需要が成立していること

国内だけで完結しないモデル

資産価値が落ちにくいロレックスの最大の条件は、需要が日本国内に限定されていないことです。デイトナ、サブマリーナー、GMTマスターIIといった定番スポーツモデルは、地域や文化を問わず認知されており、世界中で「欲しい理由」が成立しています。この“世界共通言語化されたモデル”は、特定地域の景気や流行に左右されにくく、相場が崩れる局面でも需要が消えません。鑑定現場では、海外バイヤーの動きが鈍らないモデルほど、下限価格が読みやすく、結果として評価が安定します。

為替の影響を吸収できる強さ

世界需要があるモデルは、為替の影響を吸収しやすいという特徴も持ちます。円高局面では国内価格が調整され、円安局面では海外需要が下支えになる。この両面が機能することで、極端な下落が起きにくくなります。逆に、国内需要に依存するモデルは、為替が逆風になると評価が一気に緩みやすい傾向があります。

条件② モデル内で“基準”になっていること

比較の軸にされるモデルは強い

資産価値が落ちにくいモデルの多くは、「基準モデル」として扱われています。たとえば、サブマリーナーの黒文字盤は他の派生モデルの比較対象になり、デイトナの白黒は市場の中心軸として語られます。比較の基準になるということは、常に市場の中心に位置しているという意味であり、相場が動く際も“最後まで残る側”になりやすい。マニア向けの派生モデルや限定色は、注目度は高くても基準にはなりにくく、相場調整時に振れ幅が大きくなりがちです。

「一番無難」が最も強いケース

資産価値という観点では、「尖っていない」「無難」「定番」といった評価は、むしろプラスに働きます。派手な特徴がないことで需要が分散し、長期間にわたって一定数の買い手が存在し続けるからです。結果として、価格の下限が形成されやすく、売却時に極端なブレが起きにくくなります。

条件③ ステンレススチール主体であること

金無垢・宝石モデルとの決定的な差

資産価値が落ちにくいモデルの多くは、ステンレススチールを主体としています。理由は単純で、実需が圧倒的に多いからです。日常使いができ、価格帯も現実的で、購入層が広い。一方で、金無垢や宝石モデルは製品としての価値は高いものの、購入層が限定され、再販時の選択肢が狭くなります。その結果、相場が緩んだ際に“逃げ場”が少なく、査定が素材価値寄りに引き寄せられやすくなります。

軽さ・実用性も評価に影響する

ステンレスモデルは重量や装着感の面でも評価が安定しています。日常使いできるという点は、資産価値を支える重要な要素です。「使える資産」であることは、単なる保有物よりも需要が継続しやすく、結果として値崩れ耐性につながります。

条件④ 世代を超えて評価されるデザイン

流行に左右されない造形

資産価値が落ちにくいロレックスは、デザイン面でも大きな特徴があります。それは、特定の年代やトレンドに強く依存していないことです。サブマリーナーやエクスプローラーのように、数十年単位で基本デザインが継承されているモデルは、「古くなった」という評価を受けにくく、世代を超えて需要が引き継がれます。流行色や一時的なデザイン要素が強いモデルは、ピーク時は評価が伸びやすいものの、トレンドが過ぎると下落幅が大きくなる傾向があります。

マイナーチェンジの影響を受けにくい

デザインが完成されているモデルほど、新旧差による評価のブレが小さくなります。ベゼル幅やムーブメント更新といった変化があっても、「どちらも良い」という評価が成立しやすく、旧型が急激に値を落とすことがありません。これも資産価値の保全性を高める要因です。

条件⑤ 実需と投機のバランスが取れていること

投機寄りすぎるモデルは不安定

一時期のターコイズ文字盤のように、投機色が強くなりすぎたモデルは、相場調整時に大きく値を崩すリスクを抱えます。資産価値が落ちにくいモデルは、必ず実需が伴っています。つまり「使いたい人」が一定数存在し、価格が下がっても買いが入る構造があることが重要です。

実需が底値を支える

相場が下がった局面で、最後に価格を支えるのは投機ではなく実需です。デイトナやサブマリーナーが強い理由は、価格が下がっても「この価格なら欲しい」という層が必ず現れる点にあります。この実需の存在が、資産価値の下限を形成します。

資産価値を重視する人が陥りやすい誤解

高額=安全という思い込み

価格が高いモデルほど安全だと考えがちですが、実際には逆のケースも少なくありません。高額であるがゆえに買い手が限られ、相場が緩んだ際に一気に評価が落ちることもあります。資産価値を見る際は、価格の高さではなく「どこまで下がらないか」を基準にする必要があります。

過去の最高値を基準にしない

2022年のピーク価格を基準にすると、多くのモデルが「下がった」と感じられます。しかし、資産価値の本質はそこではありません。現在の市場でどの価格帯に定着しているか、その価格が実需に支えられているかを見ることが重要です。

まとめ:資産価値が落ちにくいロレックスとは

資産価値が落ちにくいロレックスとは、世界共通で需要が成立し、モデル内で基準となり、ステンレス主体で実需が厚く、流行に左右されず、実需と投機のバランスが取れているモデルです。値上がりを狙うよりも、値崩れしない構造を理解することが、結果的に最も堅実な選択になります。ロレックスを資産として考えるのであれば、「どれだけ上がるか」ではなく「どこまで守られるか」という視点を持つことが、長期的な満足につながります。

ブランドレックス
鑑定士 千藤